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「……鳴海……」
唇が紡ぎ出すのは、やっぱり鳴海の名前。
最初は仕事仲間の『保科さん』でしかなかった鳴海の名前。
私が『保科茜』になれたのはほんの一瞬だけ。
壊された幸せな時間を修復不可能にしたのは、間違いなく私自身だ。
後悔してもし切れない。
今なら、はっきりわかる。
寂しい。
こうして、一人で泣くのも。
鳴海の傍にいることが叶わないことも。
鳴海を信じようとしなかったことを、今、私は悔やむしか出来ない。
こんな私じゃ、鳴海の傍にいる資格もないけれど。
もうすっかり愛想尽かされちゃったかもしれないけど。
今、鳴海の傍にいられるなら、どんな自分にもなれる。
そう思える私が、多分きっと、一番正直な『私』
強くてちょっと偉そうないつもの鳴海。
もう、投げやりな様子で『好きにしろ』なんて言わせたくない。
『疲れた』なんて俯かせたくない。
私が今、心の底からそう思えるのは、私が鳴海のこと大好きだから。
失いたくない、手離したくない、そう思ってるから。
傷付けられて意地張って、真綿に包んで隠し込んでしまったまぎれもない私の本心。
私はやっと、辿り着くことが出来た。
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