止まらない想い

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必要最低限の物しか揃っていない、冷えた空気のマンションに辿り着いたのは、それから三十分後のこと。 シャワーを浴びて布団の上で膝を抱えながら、観もしないのにテレビを点けた。 世間では人気のあるお笑い芸人をぼんやり眺めながら、この人のここが好きだな、こういうところはあり得ないな、なんてどうでもいい品定めをする。 割と笑える芸人でも、今のネタいまいちだったな、とか、ツッコミがおかしいでしょ、なんてどうでもいい寸評をする自分がおかしい。 コンビニで買って来た缶ビールを空けて、一口二口を一気に煽ぐ。 私には全く縁のない芸能人に対して好きも嫌いもないのに、どうしてこんな真剣に考えてるんだろう。 人間なんだから、いいところも悪いところもある。 短所のない完璧な人間なんて、実際傍にいたらきっと面白味もないって感じるんだろう。 そんなことを偉そうに考えながら、ふと私は指を折りながら数え始める。 冷たくてドライで、大事な感情を滲ませないところ。 私が欲しい言葉を絶対与えてくれないところ。 愛情を疑うくらい、態度が素っ気ないところ。 思い付く限り、私が嫌いな『鳴海』を数え上げてみた。 そのうち思い付かなくなって、もう片方の手の指を折り始める。
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