守るべきもの

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仕事に没頭して、余計なことを考えないようにしていれば、一日はあっという間に終わる。 少しでも早く鳴海に向き合いたくて、他のことなんか気にする余裕もないくらい、私は必死だった。 来る十二月に向けて、企業の資金需要はウナギ昇り。 一番懸念してる営業第二部の原さんが担当の五島自動車の案件の他にも、私はいくつかの案件を抱えていた。 毎日のように帯同訪問して、いくつもの会議をはしごする。 早朝から出勤して、毎日二十一時まで残業。 そんな日々を一週間も続ければ、さすがに身体に疲れは溜まる。 その疲れこそが、自分の頑張りへの自己満足になった。 『オーバーワークじゃないですか』と颯汰君に心配されても。 『飲み会も続いてるし、少し息抜いたら?』と華絵に呆れられても。 そんな二人に、大丈夫、と笑って見せる。 ああ、忙しい忙しい、と歌うように呟きながら。 新しい契約書のリーガルチェックを依頼する為に、私は弁護士と連絡を取る。 この一週間で三件の案件を片付けた。 来週には新規案件二件のプレゼンを控えている。 確かにちょっと疲れたけど。 こうして成果が目に見える状況なら、仕事がとても充実して感じる。 「原さんとこの案件、もう一押しでなんとかなりそうなんだ。 だから今は、息なんか抜いてられない」 華絵にそう微笑んで見せて、私は大きく深呼吸した。
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