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そう、私にとっての山場。
最初に聞いた時は正直難しいって思ったアメンド案件だからこそ、これが上手くいけば、って。
ほとんど願掛けにも近い気持ちで、私は挑んでいた。
そして迎えた、最終案件会議。
営業第二部の原さんが、ほとんど息をするのも忘れるくらい真剣に、書類を捲る松本さんを見据えている。
その視線を感じてるはずなのに、松本さんは目を上げようともしない。
原さんが抱える五島自動車の増額交渉は、大詰めを迎えていた。
これでダメなら、もう打つ手がない。
ここで松本さんが頷いてくれなければ、原さんが持ち込んだ増額案件は不発に終わるし、五島自動車との今後の取引もやや危うくなる。
原さんと同じ程度に、私が松本さんに向ける視線も険しくなってるのかもしれない。
それを自分でも意識して。
どこか緊張して胸を手で押さえながら、私はただ松本さんの反応を待つしかない。
やがて、松本さんが、手にした書類をデスクに無造作に放り投げた。
その乱暴な仕草に、私も原さんも表情が強張る。
だけど、顔を上げた松本さんは、一人涼しい表情で息をついた。
「まあ、ここまで対価を取った取引なら、うちにとってもデメリットにはならないだろう。原、部長決裁の書類、添付に追加して再度稟議申請しろ。
こっちも部長決裁になるだろうから、稟議承認に一週間は見ておけ」
「は、はい! ありがとうございます!」
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