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それを松本さんに説明する必要はない。私は言葉を濁したまま顔を逸らした。
ふ~ん、と、私の返事を聞いて松本さんは興味なさそうに鼻を鳴らした。
そして腕時計に目を向けると、自分も書類を纏めて腕に抱えた。
「もう昼時だな。俺、このまま社食行くけど、付き合わないか?」
「え? ……えっと」
いろんなことを考えて、一瞬返事に詰まった。
食欲は無いけど、いいチャンスかもしれない。
お昼を食べながら話すことじゃない。
でも私には確かに、松本さんと話さなきゃいけないことがある。
だから一瞬迷いながらも、私も自分の腕時計に目を向けて、はい、と頷いた。
だけど――。
全フロアの行員が詰め掛ける昼時の食堂は、人でごった返してる。
フロア一杯に充満してる食べ物の匂い。
ざわざわと騒々しい昼下がりの食堂。人の群れ。
いつもなら何も気にならない日常的な光景なのに。
私は、食堂のフロアに足を一歩踏み出した途端、エレベーターから踏み出した足を一歩も進めることが出来ず、その場にうずくまるように動けなくなった。
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