守るべきもの

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血相を変えた松本さんに付き添われて、行内にある診療所に担ぎ込まれた。 そのままベッドを借りて少し休憩した後、ドクターの指示で午後は早退して帰ることになった。 『二日酔い? それでも午後まで引き摺ることはそうないでしょ。 疲労もあるだろうし、今日は急ぎの仕事がなければ早退してゆっくり休みなさい』 一番の気がかりだった案件は、ついさっき目途がついたところだった。 私が午後早退したところで、そう大きな影響は今のところない。 その言葉に窘められるように、私は一度フロアに戻った。 そして、チームヘッドの上野さんに挨拶してからオフィスを出た。 頭の中はボーッとしたまま。なんだか妙にドキドキして落ち着かない。 そのまま地下鉄の駅に真っ直ぐ歩いて、ほんの少し待った後、ホームに滑り込んだ電車に乗った。 そして数分後、マンションの最寄り駅に降り立って、グッと手を握り締めて足を止めた。 二日酔い、だと思ってやり過ごせば良かったのかもしれない。 それならドクター指示で早退出来たのは、ある意味ラッキーだったと。 公然と仕事を休むことが出来て、ラッキーだったんだ、って。
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