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いつもならまだバリバリ働いてる時間にマンションに戻った。
ドアに鍵を掛けた途端、私はその場にしゃがみ込んで低い天井を見上げた。
まだ鼓動は速まったまま。
自分の身に起きたことだってわかってるのに、全然現実味が感じられない。
行く前に半分覚悟してはいたけれど、まさかって思ってた。
『おめでとうございます』
それが当たり前のように向けられた言葉に、ビクッと身体を強張らせた。
――何がおめでとうなんだか。
『ご懐妊』って。
誰にとっても目出たいことだって、そう思われてるんだろうか。
診察してくれた先生が向けた言葉に、私は皮肉にもそう思った。
このタイミングで妊娠、なんて。
私はその事実を知って一瞬本当に頭が真っ白になった。
だって、あり得ない。
考えられる相手の一人、鳴海はずっと気を付けてくれていた。
まだ子供なんかいらないって思ってたからだろうけど、いつもちゃんと気を付けてくれていた。
そしてもう一人。
颯汰君は、結局何もなかったって言ってたけど、その時意識のなかった私が、それが本当かどうか判断出来る材料はない。
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