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もしも鳴海の子じゃなかったら、と考えたら怖くて堪らなくなった。
妊娠した、と受け止めることは出来ても、どうしよう、としか思えなかった。
でもその恐怖は、直ぐ次の瞬間に消え失せた。
『妊娠八週目ってとこですね』
八週目。
それなら、相手が颯汰君であるはずがない。
私の記憶の面でも意識の面でも、相手が鳴海以外のはずがないってことはわかっていて。
この子の父親は、鳴海しかあり得ない。
心の底からホッと安堵の息を吐いて、次の瞬間、戸惑った。
まさかこのタイミングで、鳴海の子を妊娠するなんて思ってなかった。
今はもう離婚してしまった後。
だからと言って、言わない訳にいかない。
このことを鳴海に言ったら、一体どんな表情をするんだろう。
子供いらないって言ってたのに……。
このことを報告した後の鳴海の表情を想像して、グッと胸が痛んだ。
やっと、鳴海に私の気持ちをぶつける決心をしたのに。
こんな事態になったら、ただの告白に出来なくなる。
どうしたって『責任』を求めるみたいで、純粋な気持ちがぶつけにくくなる。
――どうしよう。
まだ見た目じゃ何もわからない自分のお腹を抱えて、私はこみ上げる涙を堪えた。
現実は重過ぎて、鳴海とどう向き合っていいか、わからない。
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