守るべきもの

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◇ 朝一で原さんと五島自動車を訪問する為に、その日、私はいつもよりも早く出勤した。 まだだいぶ早い時間なのに、もうフロアでは何人かの行員が自分のデスクに向かって仕事をしてる。 私のグループの島でも、上野さんが既に席に着いていて、コーヒーを飲みながら金融新聞を読んでいた。 「おはようございます」 挨拶してから、まだ施錠されたままのキャビネの鍵を取り出す。 「早いね。……ああ、五島自動車、朝一だったっけ?」 背中に上野さんの返事が返って来る。 「午前中のうちには調印出来ると思います。先方、少しでも早く持ち込みたいって焦ってたんで、稟議早く下りて良かった」 昨日用意しておいたアメンド契約書を取り出して、パラパラ捲りながら再確認する。 よし、と頷いてデスクに戻ってから、外訪用のカバンにしまい込んだ。 「上野さんからも松本さんに至急扱いの交渉してもらえて、助かりました。 ありがとうございます」 「やっとその契約も落ち着くな」 上野さんはにこやかに笑うと、フッと小さく息をついて、ジッと私を見つめて来た。 「一ノ瀬さん、それが終わったら少し身体休めた方がいいよ。十二月に入るまでは少し仕事量も抑えられるし、有給、貯まってるだろ?」 先週体調不良で早退したせいで、上野さんにも気を遣わせてしまった。 二日酔いだと誤魔化し続けたけど、結局疲労ってことでドクター指示の早退になったから、上野さんが心配してくれてるのはわかる。
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