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無事にアメンドの調印を済ませたその足で、オフィスビルに戻る。
そのまま私は、原さんと一緒に審査部のフロアに向かった。
いきなり押し掛けた私と原さんを見て、松本さんは一瞬きょとんとした顔をした。
そんな松本さんに原さんは、調印が済んだことを報告して頭を深く下げてお礼を言った。
仕事をやり切った、清々しい空気を纏って自分のフロアに戻る原さんの背中。
松本さんはどこかホッとしたようになんだか優しい目をして見送っていた。
「……五島も幸運だったな。担当営業マンが原じゃなければ、社員のボーナスどころの騒ぎじゃなかったかもしれない」
そう呟く松本さんの横顔を見上げた。
私の視線に気付いたのか、松本さんはニヤッと笑うと私を見下ろして来る。
「もしも俺だったら、打診された時点で断ってただろう。難航するのがわかってる稟議なんか書く気にもならない」
ふてぶてしいセリフを口にする松本さんに、私は吹き出して笑いそうになった。
「そうですね。って言うか、五島の担当者の方も、松本さんに相談するよりは他行に案件持ち掛けたんじゃないですか?」
「……可愛くないヤツだな。どうせ俺は営業向きの男じゃない。せいぜい内勤で偉そうにしてるのが似合う男だよ」
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