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そんなことは言ってないのに、と苦笑して、私は首を傾げて松本さんを見つめた。
「……原さんが担当だったからこそ、松本さんもいつもより親身になってくれたんですよね?」
クスクス笑いながら見上げると、松本さんは、はあ?と顔をしかめた。
「俺はセオリー通りの仕事しただけだぞ」
「そのセオリー通りの枠内で稟議下りるように、原さんにアドバイスしてくれたから、アメンドも成功したんですよ」
そう言い返すと、松本さんは黙ってチラッと私に視線を向ける。
私は軽く息を吸って、松本さんに頭を下げた。
「本当にありがとうございました」
松本さんは何も言わずに黙ってる。
私は頭を上げると、松本さんを正面から見上げた。
「嫌にしおらしいな。……純粋に、仕事に対しての礼か? それ」
眉を寄せる松本さんに、私は苦笑するしかない。
相変わらず鋭いな。
そう思いながら、私は思い切って口を開いた。
「公私ともに、って言うか……」
「公私ともに、ねえ……。過去形で礼言われるってことは、もうプライベートの方に俺は必要ないってことかな」
意地悪な目でそう言われて、私は思わず口ごもった。
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