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どこまでもからかわれてる。
そう思いながら頬を軽く膨らませて、私はジッと松本さんを見上げた。
「私、松本さんがこんないい人だったなんて知らなかったから。
それを知ることが出来ただけでも、今回のことはメリットだったんだと思います」
「一ノ瀬さん。貶してるのか褒めてるのか、全く俺にはわからないんだが」
「なので、今後も、仕事仲間としてよろしくお願いします」
丁寧にそう言って頭を下げる。
頭上で松本さんの深い深い溜め息が聞こえた。
そして、髪を乱暴にかき混ぜるように撫でられる。
「~~松本さんっ」
「こっちこそよろしく。……もうバカな夫婦喧嘩なんかするなよ」
軽口をたたいて、松本さんは私から手を離した。
そして直ぐに私に背を向けると、軽く手を上げて一歩歩き出す。
グチャグチャにされた髪を手で軽く撫でて直しながら。
その背中に、もう一度深く頭を下げた。
顔を上げて真っ直ぐ前を向いた時、松本さんはドアの向こうに姿を消していた。
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