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手元に置いておく必要のなくなった案件ファイルを書庫に返してデスクに戻る途中、前方にある会議室のドアが開いた。
その中から、颯汰君が見慣れない女の人と笑いながら出て来るのを見て、私はなんとなく立ち止まった。
「それじゃ、沢尻さん。午後の帯同、よろしく」
「こっちこそ。また後程」
割とフランクな挨拶を交わして、女の人はこっちに向かって歩いて来る。
カツカツとヒールを鳴らして、進行方向に突っ立っている私に目線を上げると、女の人は軽く会釈をして通り過ぎて行った。
慌てて頭を下げて顔を上げると、颯汰君が私に気付いて首を傾げていた。
「一ノ瀬さん。戻ってたんですか?」
そんな言葉を口にしながら、颯汰君も私の方に足を向ける。
うん、と頷きながら、私は無意識にさっきの女の人の背を振り返った。
「見慣れないけど、支社の営業担当の人?」
「はい。丸の内支社にこの間異動して来たんです。
午後の訪問先での案件が異動後初の契約になるそうで、打ち合わせも兼ねて挨拶に来てくれたんです」
真面目ですよね~、と言いながら、颯汰君は軽く肩を竦めた。
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