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「僕も本部や支社で法人営業に就いたら、そのくらいの気合いも必要になるんですかね」
「今の仕事じゃ気が乗らないみたいな言い方だね」
軽く眉間に皺を寄せて颯汰君を睨むと、颯汰君は苦笑して首を横に振った。
「そうじゃないですけど。案件成約して部の収益に計上されても、所詮僕達の直接の取引先って訳じゃないし。
なんか、僕達はおまけって感じじゃないですか。取引先にとっても」
そう言って颯汰君は、ハアッと溜め息をついた。
そんな颯汰君に、私は微妙にはは、と笑う。
銀行営業の花形は、やっぱり本部ラインでの大企業取引を担当すること。
まだ入行三年目の颯汰君にとって、名の知れた大企業や巨額な取引を担当することは純粋に憧れなのはわかる。
「私達の『取引先』は、支社や本部の営業マンだからね。だからその分、日本中で取引があるって思えば、少しはグローバルじゃない?」
少しは気休めになるかと思ったのに、颯汰君はどこか浮かない表情で足元に視線を落とした。
「……そう考えると、やっぱり保科さんって凄い人なんですよね」
「え?」
ボソッと聞き取れないくらい小さな声で颯汰君は呟いて、聞き返した私に困ったように笑って見せた。
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