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「……って言うか、返事なんて聞かなくてもわかり切ってるんですけどね」
昇りのエレベーターに乗り込んで、颯汰君がボソッと呟いた。
「え?」
頭上から降って来た颯汰君の声に、私は聞き返しながら顔を上げた。
「ライバルが保科さんだなんて、元々僕に勝ち目なんかなかったんだから。
……保科さんとやり直すって決めたんでしょう?」
溜め息混じりの苦笑を浮かべて、颯汰君は私をジッと見つめた。
「や、やり直すかどうかはわかんないんだけど」
はっきり口にする前に先手を打ってそう言われて、私は俯いた。
この時間、食堂に向かう人は少ない。
私と颯汰君が乗ったエレベーターには途中誰も乗って来ないまま、ノンストップで食堂のフロアに到着した。
先に足を踏み出す颯汰君に、慌てて頭を上げる。
「颯汰君、私ね……」
勢い込んでそう声を掛けて、目の前で立ち止まった背中に、シッと、止められた。
「え?」
「……あそこ。保科さんと金井さんがいる」
「……え?」
その言葉に言いようもなくドクンと胸が騒いで、私は颯汰君が真っ直ぐ見つめる方向に視線を向けた。
そこに言葉通り、鳴海と金井さんの姿を見付けた。
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