守るべきもの

22/36
前へ
/326ページ
次へ
「……って言うか、返事なんて聞かなくてもわかり切ってるんですけどね」 昇りのエレベーターに乗り込んで、颯汰君がボソッと呟いた。 「え?」 頭上から降って来た颯汰君の声に、私は聞き返しながら顔を上げた。 「ライバルが保科さんだなんて、元々僕に勝ち目なんかなかったんだから。 ……保科さんとやり直すって決めたんでしょう?」 溜め息混じりの苦笑を浮かべて、颯汰君は私をジッと見つめた。 「や、やり直すかどうかはわかんないんだけど」 はっきり口にする前に先手を打ってそう言われて、私は俯いた。 この時間、食堂に向かう人は少ない。 私と颯汰君が乗ったエレベーターには途中誰も乗って来ないまま、ノンストップで食堂のフロアに到着した。 先に足を踏み出す颯汰君に、慌てて頭を上げる。 「颯汰君、私ね……」 勢い込んでそう声を掛けて、目の前で立ち止まった背中に、シッと、止められた。 「え?」 「……あそこ。保科さんと金井さんがいる」 「……え?」 その言葉に言いようもなくドクンと胸が騒いで、私は颯汰君が真っ直ぐ見つめる方向に視線を向けた。 そこに言葉通り、鳴海と金井さんの姿を見付けた。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5591人が本棚に入れています
本棚に追加