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人気のない食堂内。
唯一物音のする厨房から遠く離れたテーブルに、鳴海は軽く腰掛けている。
そして、目の前に立って俯く金井さんを、黙ってジッと見つめている。
そんな二人の姿に、私はそれ以上足を踏み出せない。
何を話してるのかはわからないけど、あっさり邪魔出来る雰囲気じゃない。
二人がここで何をしてるのか。
間に割って入る勇気なんかない。
だから私は、先に進もうとする颯汰君の上着の裾をグッと引っ張った。
「……颯汰君、行こう」
「え?」
「違う場所行こう。邪魔しちゃ悪い」
俯きながらそう言うと、颯汰君は黙って私を振り返った。
そして距離があるまま、黙って二人をジッと見遣る。
「……一ノ瀬さんは、それでいいんですか?」
いつものトーンとは全然違う低めた声でそう聞かれて、思わず顔を上げた。
「二人が何を話してるのか、気になるんでしょう? あんなに雰囲気出されちゃ、僕だって気になる。
それに、邪魔なはずないじゃないですか。一ノ瀬さんは、元妻なんだから」
「元だよ」
「元でも何でも、金井さんよりは優位でしょ」
有無を言わさぬ強い態度でそう言って。
颯汰君は私の腕をグッと掴んで、まるで突進するように二人に近付いて行く。
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