守るべきもの

23/36
前へ
/326ページ
次へ
人気のない食堂内。 唯一物音のする厨房から遠く離れたテーブルに、鳴海は軽く腰掛けている。 そして、目の前に立って俯く金井さんを、黙ってジッと見つめている。 そんな二人の姿に、私はそれ以上足を踏み出せない。 何を話してるのかはわからないけど、あっさり邪魔出来る雰囲気じゃない。 二人がここで何をしてるのか。 間に割って入る勇気なんかない。 だから私は、先に進もうとする颯汰君の上着の裾をグッと引っ張った。 「……颯汰君、行こう」 「え?」 「違う場所行こう。邪魔しちゃ悪い」 俯きながらそう言うと、颯汰君は黙って私を振り返った。 そして距離があるまま、黙って二人をジッと見遣る。 「……一ノ瀬さんは、それでいいんですか?」 いつものトーンとは全然違う低めた声でそう聞かれて、思わず顔を上げた。 「二人が何を話してるのか、気になるんでしょう? あんなに雰囲気出されちゃ、僕だって気になる。 それに、邪魔なはずないじゃないですか。一ノ瀬さんは、元妻なんだから」 「元だよ」 「元でも何でも、金井さんよりは優位でしょ」 有無を言わさぬ強い態度でそう言って。 颯汰君は私の腕をグッと掴んで、まるで突進するように二人に近付いて行く。
/326ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5591人が本棚に入れています
本棚に追加