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「ちょ、ちょっと……!」
慌てて抗議して手を振り解こうとしたけど、それより先に、金井さんが私と颯汰君の気配に気付いてしまった。
「……あ……」
真っ直ぐ向けられた鋭い視線。
それにつられたように、鳴海も私達に気が付く。
「お疲れ様です、保科さん、金井さん。……こんなとこで、何してるんですか?」
あくまでも慇懃な颯汰君の笑顔が、二人を目一杯探ってるのは私にもわかる。
さすがにこのテンションは無理がある。
こういう場では私が率先して颯汰君に話を合わせなきゃいけないってわかってても、今の私にはハードル高過ぎる。
案の定、金井さんは黙って目を伏せる。
鳴海は素っ気なく、別に、と呟くだけ。
「そうですか? 業務中にこんなとこに二人でいるなんて。思った以上に仲がいいんですね、二人」
めげる様子も無く、颯汰君はニコニコしたままそう呟く。
え?と目線を向けた鳴海に、颯汰君は態度を変えずに言葉を続けた。
「僕達はちょっとした息抜きなんですけど。……見掛けたから、つい声掛けちゃいました!」
――苦しい。苦しいよ、颯汰君……。
その場の誰も何の反応も返せないのを見て、フウッと息をついた。
「……結構本気で邪魔だったみたいですね。一ノ瀬さん、僕達やっぱり場所変えましょうか」
その言葉にむしろホッとする。
うん、と頷いて二人に背を向けようとして。
「……!?」
いきなり後ろから強く肩を掴まれて、私は驚いて振り返った。
「どうして……!」
え?と思う間もなく、強い力で肩を揺さぶられる。
あまりの力に、その手を振り払うことも出来ず、私はただ呆然と金井さんを見つめた。
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