【5】ふたりで生きる

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政、焦る 高校三年の秋は進路決定の天王山だ。 政は父が教授職を勤める大学、つまり附属高校から繰り上がっての進学が決まった。加奈江も同じ学校へ進むこととなった。 女子の四年制大学への進学はまだまだ珍しかったから、彼女の親と姉夫妻は喜んだが、親戚縁者は「女に学はいらないだろう、賢い女は縁遠くなる」と言ってきているようだった。彼らがご注進する度、 「私が早かったんだから。平均するとちょうどいいわ」 と道代はぴしゃりと言って退ける。 「せめて短大にして、どこかにお勤めすればいいんだよ、お婿さんの紹介がしにくくなるんだよ?」 「あら、賢い女がいやなんて言う男、加奈江には合わないから」 「でもね」と言い募ろうとする彼らの口を封じるように、「あーら、おっぱいの時間だわ」と言って道代が胸をはだけようとすると、皆、一目散に退散した。 姉の腕には、先頃産まれた娘が、顔を赤くして熟睡していた。 「うちの妹は、あんたたちの世話なんていりませんよーだ」 客人が帰ったのを確かめてから、塩をまきかねない様子で道代はぶつくさ言った。 「ちゃんと彼氏だっているんだから」 ねえ、と姉から話を向けられる度に加奈江は、姪以上に顔を赤くした。 確かに、道代は高校を卒業してすぐの結婚だったから、その妹も早いだろうと周りの人たちに思われているのかもしれない。 家事手伝いで家に入るのはもちろん、就職を視野に置いたことはなかったから、進路の選択に迷いはない。 4年先のことは、今の加奈江には遠すぎる未来だった。 特になりたい職業もない。明確な目標もない。大学生でいる間に見つけようと思った。
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