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明けて4月、ふたりは学部は違えど同じ大学に入学した。
加奈江は商学部を。政は文学部で中国史を専攻していた。親との接触を避けて選んだ学部だろうと周りには受け取られたが、「とんでもない」と政は即答する。
「古文書に接する機会を増やしたかっただけだ」と言い返した。どんな書物に出会えるだろうと子供のように目を輝かせる政は、全てが書道に結びつく思考パターンで行動していた。
世間は学生運動が社会問題化していた頃だ。
ふたりが通っていた学校は幸いなことに騒ぎに巻き込まれず、普通に学生生活を送れていた。
だから、些細なことで言い合い、お互いを見つめ合う時が持てた。
高校の、同じクラスメイトだった頃とは勝手が違う。
同じような時間に授業が終わり、いっしょに帰れるわけではないけれど、共に歩くのは以前と同じ。
語り合う時間も同じだった。
違っていたのは、制服を着る時は終わったと言うこと。
同級生の女子たちの例にもれず、年頃の加奈江は、普通にお洒落を楽しみ、化粧をした。
人形のようなつくりの顔がコンプレックスだった加奈江は、おしろいをはたき、紅を引いた鏡の中の自分の顔に驚いた。
化けるとはよく言ったもの。さじ加減を間違わなければ彼女はとても化粧映えし、すれ違う人を振り向かせる若い女性に成長していた。
それを政が喜ぶかというと。
別問題だった。
加奈江が美しく装う姿を見て満更でもないくせに、何だ、その化粧は、服は、とうるさかった。
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