【5】ふたりで生きる

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1年、2年と上の学年へ上がっても、ふたりの間は高校の頃のまま、特に進展はなかった。 彼は、高校生の時に語った通り、彼女を守るナイト以上のことはしなかった。 成人を迎えたふたりだ、伸ばしてつないだ手をもっと近くへ引き寄せたいと思わないわけがない。 会話が途切れた時、もし許されるのなら、彼に身を投げ出したいと思う私は、やはり、変なのだろうか。 時折腕を組んで歩く時、いつもより、わざと組む腕に寄せる身をさらにくっつけてみた。 拒まない彼を、加奈江は、うれしく、時々、物足りなく思った。 けれど、彼の言葉を信じていた。 政は時が来るのを待つと言ったから。 口に出していわなかったけれど、感じていた。幼い恋が結実して、自分にとって相手が、次第に離れられない、なくてはならない存在になっているのを。 きっと彼も同じように思ってくれていると。 政は、出会った頃と比べると、堅苦しさが削げ、角がとれた。人間の深さに変わっていた。 それは制作された作品にも表れている。 みずみずしさはそのままに、伸びやかでかつ艶やかさが加わっていた。 人間的な成長がそのまま作品に反映されているのだとしたら、彼はどこまで伸びていくのだろうと思わせるほどに。 作品がより深化を増している政は、しかし加奈江のこととなると勝手が違っていた。 大切な女性として守る姿に変わりはないが、知り合った頃とあきらかに違うのは、彼女を前にして始終焦っている様子を見せるようになり、負の感情を隠さなくなったところだ。 彼の焦りや嫉妬は、彼女ではなく、彼女の周り、具体的に言うと他の男子学生へと向けられていた。
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