【5】ふたりで生きる

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手を携えて 1 三回生に進学したある日、ふたりは久方ぶりにふたりきりで合う日を持てた。 近頃、政は何かと忙しく、約束が反故になるのもしょっちゅうで、直接会えない日々が続いた時は電話で長々と語り明かした。 「もう少し早く切れないの? 急ぎの用事が入ったらどうするの。先方も電話代がバカにならないでしょう?」 長話が終わって電話を切った後には必ず、母や姉に叱られた。 だって、次から次に話が止まらないんだもの。 じゃ、切るから、と言ってから先が長いのだもの。 止める方法があるなら教えて欲しいわ、と小言を聞きながら加奈江は心の中で抗議した。 けれど、今日は一緒に過ごせる。 高三の文化祭前に彼女が筆をふるった彼の師の教室が今日の『デート』の場所。展覧会用に作品を仕上げる彼に付き添うことになっていた。 加奈江は、嬉しくて、いつもより化粧を念入りにして、お気に入りのワンピースを選んだ。当代流行のミニスカートは彼女の脚の線を見事に引き立たせる。 髪はゴムでひとつにしばって、分け目を櫛できちんと入れてから前髪をピンで止めた。 どう? と聞いてくる妹へ、ひとつにまとめるのはもったいない! と姉は言い、彼女のアドバイス通りに、しばった艶やかな直毛を自宅でいる時そのままになびくに任せた。 待ち合わせ場所に現れた彼女を見てすぐに、政はくるりと回れ右をし、「行くぞ」と一方的に言って先へ歩き出してしまった。 せっかくおしゃれしたのに。 何も言ってくれないのね。 がっかりして、彼女は政の背中を追った。
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