【5】ふたりで生きる

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「ちょっと待って」 加奈江は足を止めて、政に声をかけた。 バッグにいつも入れている髪留めとゴムで簡単に髪をまとめて、「これでいい?」と問うように彼女は彼を見上げた。 「うん」と言う政はほっとしたように見えた。 「びっくりさせた?」 「うん。でも」 「でも?」 「似合ってる」 小さい声で彼は言う。 「けど!」と今度は大きな声で。 「人前であんまり脚出すな! 髪も垂らすな!」 「あら、流行ってるのよ、いいじゃない」 「流行っててもだめだ!」 「風紀委員みたい」加奈江は口を尖らせる。 「お母さんだってそこまで厳しく言わないわ」 「他の奴に見せることないだろ!」 今度こそ、ぷいっとそっぽ向いて彼は先を行く。あきらかに顔は朱に染まる彼に、ねえ、政君、と加奈江は心の中でひとりごとを言う。 私だって。あなたにいつもドキドキしてるのよ。 ステキだって、胸が熱くなるの。 あまり格好良くならないで、っていつも思ってる。他の女子に見せたくないくらいに。 知ってた? と。 「そういえばね」 加奈江は先を行く彼の背に向かって言った。 「うん?」 「今日、びっくりすることがあったの。何だと思う?」 「それだけじゃ皆目見当もつかない」 「あのね。あなたのお父さんに会っちゃった」 「そりゃ、会いもするだろう、お前の学部だと、専門課程を担当することもあるだろうし」 政の父は同校の教授だ。広い校内とはいえ、四年間も在籍していればすれ違うぐらいのことはあるはずなのだが。 「お忙しい方だっていう話は本当ね、何年も通っているのに、写真以外でお顔を見たのは初めてだったわ」
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