ねえ。それでも……

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ほんの数秒、 屈(カガ)んで丸まった彼の背中を見つめてしまった。 彼の柔らかい言葉に…… 時間がまき戻ったような錯覚を覚える。 幸せだった……あの頃。 彼の背中に飛びつきたくなる。 今にも手が伸びそうになって…… 私も彼に背中を向けた。 下を向いて紙を集めると、 手元の一枚に滴(シズク)が落ちた。 紙の裏から染みた涙が表の文字を滲ませた。 私は慌てて指先で目元を拭(ヌグ)った。
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