事例1:恋愛オンチの私。

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なんて、次々に確かめたくなる衝動なんかに耳を傾けてはだめ。 朝日君とは彼氏彼女だけど、想い想われているわけじゃない。 よく聞くお試しというやつ、なのだろうと思う。 そうやって、自分の都合のいいように捉える思考を片っ端から追い払った。 そうしながら頭一個分以上高い場所にある朝日君の顔を見上げて話をしていると不意に、朝日君が立ち止まって私を壁際へ追い詰めてくる。 え、 何...? いきなりのことと、朝日君から笑顔が消えていることもあって何か怒らせることでも言ったかと必死にさっきまでの会話を振り返る。 けれど、小さな脳みそにはこれと言って怒らせるようなことを言った記憶がインプットされていない。 じゃあ、怒ったんじゃなくて気分を悪くさせたのかと別の視点でもアクセスを試みたが何も引っかかってこない。 ほんの一瞬の間にこれだけのことをやってのけた自分を誉めてやりたいが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。 じゃあ何かと朝日君に改めて向き直った。 「....自転車、くるから」 「え...」 聞いたことがないような声で呟かれ、反射で声を上げ私の目の前を一台の自転車があっさり駆け抜けていった。 朝日君の肩越しに自転車を見送って、自転車が来てることを知らなかった私を庇ってくれたのだとこの時点で初めて悟る。 今まで自転車が横を通り過ぎてもこんな扱いされたことなかったので、無邪気な頭はまたしても“もしや?”と勘違いしそうになっていた。 それをまた、必死の思いで封じ込める。 「あ、ありがとぅ」 「ぅん、や、別に。てか...西野谷」 次は足下にまで響く低い声で名前を呼ばれてびくんと跳ねる。 同時に跳ねた手は朝日君がしっかり握っていて、その手と反対側の手が私の顔の横に伸びてきた。
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