事例1:恋愛オンチの私。

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誘いにいくことも、彼が教室にいるかどうか探りに行くことも、教室に行くという行動だけで見たら同じことなのに、誘いに行くのではないからと理由が変更すると嘘みたいに足が軽くなった。 さっきまでのあの煮えきら無さは何だったんだろう。 朝日君はA組で私はF組。 ほとんど校舎二階フロアのはしとはし。 チラッと覗ける距離ならあんな不審な行動せずにすんだのになと愚痴がこぼれた。 疚しいことをするわけでもないくせに足を忍ばせるところは、人間の習性なんだなと思う。 一つ二つクラスを見送って、A組が近付いて来るほどに足の運びが怪しくなってくる。 けど、その行動も空振りみたいで人の気配は感じられなかった。 誰かいたら何となく感じる人の気配も何も伝わってこない。 これならもう確かめる必要もない。 帰っちゃった、ね、きっと。 そばにあった教室のドアに背を預ける。 溜め息が漏れた。 確かめるだけのつもりでここまで来たくせに、誘うことも出来ずにうろうろしていたくせに、いないとなると急にがっかりした気持ちになる。 寂しくなる。 さっきまでの自分の行動が、この場にいない人のために繰り返されていたのかと思うと恥ずかしくもあった。
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