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「しっかし成績は良くっても、今描いてるデッサン、マジでダメダメじゃん。目の前にあるもの、見たままを描けばいい簡単なことを、ワザと難しくしているようにしか見えないな」
そのままの体制を維持して、俺の右手から鉛筆を取り上げ、スケッチブックに描いてある絵に、さらさらっと修正を施してくれる。
「俺のもついでに、見てもらえませんか? 西園寺先輩っ」
業を煮やしたクラスメートが話しかけると、ソイツのことを見ずに、分かったと事務的な返事をした。それでも嬉しかったんだろう。俺の顔を見て、右手親指を立ててくれる。
ちゃっかりしたヤツだなと呆れ返りながら、背中にある西園寺先輩の体温とわずかな重みを感じるべく、目を閉じた。
耳に聞こえるのは、スケッチブックから聞こえる鉛筆を走らせる音と、西園寺先輩の息遣いだけ。ずっとこのまま、先輩の存在を感じていたいと噛みしめてしまった――
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