第一章 この時代での男の生き方

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3 じりじりじり!! という天敵の轟音が俺の眠りを妨げる。 「ふぁ……?」 もう五月だ。そこそこ暖かくなっているとはいえ、布団は楽園だ。ここから出るなど言語道断なのだ。 それでも俺はごしごし目を拭い、引っ掴んだ天敵を頭に叩きつけ、何とか眠気を吹き飛ばす。今日も元気に騒ぐ目覚まし時計を黙らせる。 「睡眠薬の量、もうちょっとへらひてもいいきゃもな……」 呂律が回らない。 まだ寝ぼけているのか。 とにかく俺は芋虫のように移動し、水で顔を洗う。今度こそしゃっきりしてきた。 「はぁ。一ヶ月でこれかあ」 大人になって大成するためとはいえ、猛獣よりも恐ろしい連中と笑顔で接するなど地獄以外の何物でもなかった。下手すれば死ぬ。何の比喩表現でもなく本当に殺される。その極限状態からのストレスで眠れなくなった。薬に頼らないと満足に眠れないほどに。 「くそっ」 なんともなしにつけたテレビより今日も茶番を垂れ流すニュースが。 『魔女』が逃亡中の『男』犯罪者を始末しただの魔法使いが犯罪者『であろう』男を始末しただのって内容をさも英雄の伝説のように読み上げるニュースキャスター。 本当のことも含まれているかもしれない。とんでもない凶悪犯が潜んでいて、そいつを無力化するには殺すしかなかった。だから殺した女に罰則はない、という事例もないとは言わない。 だが、いくらなんでも多すぎる。 故意に『男の犯人』を作り、始末することで罪をなすりつける意図が見え隠れしている。 ……そんなことはみんな知っていた。その上で額面通りに受け取っている。 これも女尊男卑の世の中の原則。 魔法使いという特権階級の横暴。 「俺はこうはならねえぞ」 何やら政治的な悪いことをしたとして取り上げられている気の良さそうな男の映像を見ながら、俺は改めて決意する。 こんな風に使われてたまるか。 俺の命は俺のものだ。 魔法使いどもに利用されるためにあるんじゃねえ。
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