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「ってなに熱くなってんだか」
嘆息し、さっさと着替える。
学ランに着替え、トースターに突っ込んでおいた食パンが焼けたのでマーガリンを塗り、食べる。うん、美味い。
後は適当に身支度を終わらせ、早めに家を出た。理由は一つ。女がいない場所でゆっくりしたかったから。
通学路を外れ、適当に歩く。
結構早めに出たからか、女どころか人自体とすれ違うこともほとんどなかった。
だというのに。
それは俺の前に現れた。
「むぅぅーっ。はぁっ!」
何やら手をパタパタ振るヘンテコな格好をした女だった。おそらく年齢は俺の下か同じくらい。ただその格好は黒マントにとんがり帽子……つまり絵本の中の魔女そのものだったりする。
「…………、」
全身に緊張が走る。
間抜けな奴、という評価をしていいわけがない。相手は女だ。それこそあれが何らかの儀式で、終了と共にこの街が吹き飛んだってなんら不思議ではないのだから。
と、そこまで考えたところで『にゃあ』と特徴的な鳴き声が。彼女が見上げているもの。結構デカい木の枝の上に子猫がいたのだ。
「まさか子猫を助けようとしてんのか?」
「ぅえ!?」
しまった、と俺は内心舌打ちをこぼす。声に出すとかまだ寝ぼけてんのか!?
女に注目された。
もう逃げられない。
……なら意識を切り替えろ。
女がいないからと顔を覗かせていた『素』を塗り潰せ。演技に集中しろ。気さくなイケメンという記号を当てはめろ。
俺が今対峙しているのは単体で町でも国でも世界でも相手にできる怪物、と考えろ。見た目に騙されて油断していると痛い目にあうぞ!
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