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「すみません、突然声をかけてしまい。驚かれましたか?」
「あ、いえ。そんなことは……」
「それで、その、不躾な質問だとは思いますが、やはり貴女は子猫を助けようとしていたんですか?」
「は、はいっ。その、あの、わたし、浮遊の魔法が使えるから、あの子を浮かばせて助けようかと……」
………………………………、は?
ちょっと、待て。浮遊だと?
浮遊ってあの浮遊か!?
炎を噴射するとか重力を操作するとかの副産物として空を飛ぶ技術じゃなくて正真正銘空を飛ぶアレか!?
「あの、どうかしましたか? その、顔色が優れませんけど……」
「……っ。い、いえ。大丈夫ですよ」
大丈夫なもんか。
浮遊の魔法。絵本の中じゃどいつもこいつも簡単に空を飛んでいる。昔は魔法といえば空を飛ぶことって認識もあったかもしれねえ。
が、魔法が一つの技術として確立した現代じゃそんなのはとんだ戯言だ。
手っ取り早く言おう。
浮遊の魔法は超難度の魔法だ。あの堂島雫ですら絶対に使えないと言えばその難度がどれほどのものか分かるだろう。
ふざけやがって。なんだってそんな怪物が俺の前に現れやがる!? ちょっと女がいないところで一息つきたかっただけなのによ!!
「しかし子猫を助けようと、ですか。優しいんですね」
「ぅえ!? そ、そそそんな、わたしはただあの子があそこから落ちて怪我でもしたら大変だと思って……っ!!」
「そう思えるのが優しいんですよ」
死ぬ。選択肢を一つ間違っただけで肉片すら残さず消滅する!
法律じゃ『そこで人が殺された』証拠さえあれば事件化される。血痕とか凶器とかがあれば事件になるってことだ。
だが。
この女はそれこそ血痕の一つも残さず人を消し飛ばすほどの暴力の塊だ。ちょっとイラッときただけで証拠を残さず人を殺せるのだ!
落ち着け。慌てるな。
爆弾の解体よりも慎重に言葉を選べ。今、俺は! 全方位を死で埋め尽くしたような地獄に突っ立っているんだから!!
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