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「……ふぅ……」
誰にも聞こえないようにそっと息を吐く。あのヘンテコな喋りをするだけでも神経を使う。だが油断はできない。相手は『玄武』に所属している怪物だ。多分家の一つや二つ軽々と粉砕できるぞ。
と、俺が地雷原を何とか渡り歩いて安心しているところに前の席の男が声をかけてきた。
「随分と堂島に気に入られてるなー東城」
「みたいだね」
「でも相手は『玄武』所属の魔法使いだぜ? あんなバケモノとよく平気な顔して話せるな。俺なら怖くて無理だね」
勘弁してくれ。
周りにはまだ女が残ってるんだ。そーゆーめんどくさい話題を出すなっつーの!
「確かに堂島さんはかなり凄い魔法使いだけど、イコール恐ろしいってことにはならないよ」
……くそ。この会話が変に曲解されて、『東城大和が堂島雫を怖いと言っていた』とかならないだろうな? 人の噂ってのはいい加減だからな。こーゆーのは話題に出さないくらいが丁度いいってのに。
ーーー☆ーーー
五時間目は自習だった。
理由は女子が『魔法学』を受けているからだ。
魔法学。
文字通り魔法を学ぶ教科だ。
今日は実戦形式なのか、グラウンドのほうから轟音やら震動やらが届いていた。
窓の外。
そこに尋常ならざる光景が広がっている。
炎が舞い、致死性を帯びた閃光が炸裂し、何やら凄まじい爆発が起こる。
ノーリスクハイリターンの暴力、その席巻。既存の兵器に金を回すより魔法使いの育成と維持に使ったほうがマシだという現代の考えがよく分かる光景だった。
あれで一年。
それこそ一クラスでも揃えば銃器を揃えた軍隊くらいなら粉砕できるだろうと思えるほどの力。
その中でもやはり堂島雫は別格だった。
その力は風。正確には空気の掌握。それ自体は典型的なものなのだが、規模が違った。
身の丈以上の炎の渦。
鋼鉄さえ貫く数十の槍。
地面を引き裂く遠距離攻撃。
その他諸々数十の魔法をその身に纏った空気でもって受け止めているのだ。
魔力による強化、その結果。
現在彼女の周囲に展開されている空気はあらゆる障害を跳ね除ける力を宿している。
風が解放される。
竜巻にも似た暴風がグラウンドを席巻する。確か二クラス合同だったろうに、そのすべてを薙ぎ払ってしまった。
一年の時点であそこまでやるとは。やはり『玄武』に所属しているのは伊達じゃないみたいだ。
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