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「夕さ、今日の夜、ちょっとだけ時間ある?」
優さんにそう言われたのは、コンビニでジュースを選んでいる時の不意の瞬間だった。
私は彼の事を優さんと呼ぶようになり、彼は私の事を夕と呼ぶようになった。
呼び捨てって…すごくいいですね、なんか。
「ある。けど、今日は門限があるから。」
門限がない事をいったいいつ頃彼に伝えればいいのだろうか。
「何時?」
「12時。」
「12時って結構遅くないか?いつもそんななの?」
え、12時少し遅かったか。そうか夜の12時だからもう次の日か…私とした事が…とりあえずここは何とか切り抜けねば。
「いつも…そ、そうです…」
「危ないな…もうちょっと早くできねーの、それ。」
「えっと…ちょっと相談してみる…ます。」
彼が目をじっと見てくる。すっごい見てくる。
次こそは言おう、絶対言おう。
こんなに見つめられたらもう絶対嘘なんてつけないよ。
「どしたの?なんか今日敬語多くない?」
「そんなことないです!」
「いや、だからそれ敬語だから。」
どうしよどうしよ、また敬語続いちゃった。せっかくのこんな、よく漫画で出てくるコンビニデートなんてなかなかできないんだから。
「あ…ごめんな…ごめん。」
「夕さ、ジュース何飲む?てか最近紅茶?よく飲んでない?」
あれ?あんまり怒ってない?いや、逆かもしれない。もう呆れてこいつ後でぼこぼこにしてやろうとかきっと考えてるんだ。絶対そうだ。不良ってやっぱ怖い。でも彼は違うと思ってた。いや、違うはずなんだ、絶対違う。違ってて欲しい…
「あ、うん。おいしいのあって。」
「何何?どれどれ?」
私と彼の距離が近くなる。あれ、今日なんか香水つけてる?いつも付けてないのに何でだろう。いや、これはもしかして柔軟剤かな。新商品の?あのCMの?あれ今度買いに行こう。
「ピーチティー。」
「それっておいしいの?桃の紅茶?甘いの?すっぱいの?」
「え、えと、おいしいです。甘いです。すっぱくはないです。」
「へえ。俺も飲んでみようかな。てかさ、結構紅茶バリエーションあるんだな。これ何?葡萄?まじかよ。え、これマスカット?マスカットって…葡萄だろ?何で2種類?何で?」
何かすごく可愛いな優さん。これずっと見ていたい。こんな近くで見るのは、前に泊った時以来だな。枕の匂いと髪の毛の匂いがすごく甘くて、全然眠れなくて、でもすごく温かい気持ちになったのを思い出した。
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