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「ん?どした?」
あ、見過ぎちゃったかな。どうしよう、顔にやけてたかな。
「何でもない…です。」
「夕さ、今日俺の家帰るまで、敬語禁止な。」
「え。」
「もし敬語話したら、道端でキス、してもらうから。」
「ええ。」
キス?!キスってあのキスですよね?!私から?しかも道端で?!
そんなの漫画にあったっけ?!
「嫌?」
「だってまだ…その…」
漫画ではたまに、というか結構頻繁に告白前から抱き締めたりキスしたりはありますが、ここは現実の世界なのです。そんなこと私にはできないのです。
どうしたらいいんだろう。神様、教えて神様。
「まだ俺の事好きじゃない?」
「好きです!」
「あ。」
「あ。」
あ、やってしまった…終わった…私の恋終わった…
「俺も好きだよ。」
あれ、何か聞こえたような、好きって聞こえたよな。
「えっと……私もです。」
「さっき聞いた。」
彼は私の頭を少しだけ触ってから、目線をジュースケースに向け直した。
「優さん。」
「何?」
「やり直しませんか?」
「ん?何を?」
「告白…ちゃんと考えてたんだから、ちゃんと。」
あんなに練習したのに何でこんな数秒で終わっちゃうんだろう。そんなの嫌だ、もっとロマンチックに、もっと漫画みたいに、もっともっと…
「俺も考えてたよ。」
「え、嘘だ。」
「いやいや、今日はその為に一緒に帰ってるんだし。」
「そうなんだ…」
彼は目線をこちらには向けないが、優しい声に体全体が包まれているような、とてもロマンチックな空気に一人酔いしれていた。
「で、何がおすすめなの?紅茶。」
そうだった、聞かれてたんだった。早く教えなきゃ、早く教えて、告白の続きをさせてもらおう。
「えっと、やっぱり桃だけど、でもマスカットもいいかも。後味良かったかも。」
「へえ。後味か。いいねそれ。」
彼の目が優しく私を見つめてくれた。私はもっとこの笑顔が見たい。
その為なら、きっと何でも出来ると、そんな根拠のない自信をいつの頃からか持ち合わせるようになっていた。
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