プロローグ

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何かを一から作るのって、意外と難しい。 うまくやろうとすればするほど、反発するように、うまくいかなくなるものだ。 ということを、私は一人暮らしを始めて3か月の今、ひしひしと痛感していた。 たとえば、目玉焼き。半熟にしようとフタをしめ、再び開けてみれば…… 「またやってしまった……」 私はフライパンの中身を見て、がくりと肩を落とした。 どうして……どうして……私は今だに、目玉焼きひとつまともに作れないんだろう。 これはもはや目玉焼きではない。 まるで夜空に浮かぶ朧月のような……いや、そんな神秘的なものでもなく、ただの黒焦げの物体だ。 それを食す勇気はなく、かと言って焦げだらけのフライパンに再び卵を投入する気にもなれない。 そもそも時間のない朝に、目玉焼きを焼こうとする行為が間違っているのかもしれない。 でも、実家で毎朝母の作った半熟目玉焼きを食べていたから、あれがないと朝が始まった気がしないのだ。 目玉焼きが食べたい。でもうまくできた試しがない。 このジレンマをどうすれば…… というかもう少し早く起きればその問題は一発で解決するんだろうけど、それがなかなかできないから困っている。 そうこうしているうちに、大幅に時間をロスしてしまった。 いけない。今日はいつもより早く行かなきゃいけないのに。 会社に1人いる、鬼のように怖い先輩の顔を思い出し、ひゅうっと背筋が寒くなった。
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