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柔らかな日差しが午睡を誘う、緩やかに時間の流れていく昼下がり。店内に流れるスローテンポなピアノジャズが、一層の眠気を誘うようだ。有線ではなく、CDなどからピックアップして、自分で選曲して流しておきながら、俺はカウンターの中であくびを噛み殺している。
「スバルさぁ~ん、お客の前であくびっていうのはど~なのぉ~?」
間延びした、というには若干の苛立ちを覚えるような口調でそう告げるのは、カウンター席の壁際に座っていた高校生だった。その高校生を横目で確認すれば、予想通りのシニカルな笑みを浮かべている。
「お客の前くらいさぁ~、しゃんとしよ~?」
「何を今更言ってるんだ?お前は丁重に扱われるべき客でもないだろ。ウチに通い詰めて常連化してるんから」
「常連とはいってもさぁ~?お客はお客じゃ~ん?」
「一見も丁重に扱うべき常連もいない、いるのはそれ以外の常連であるお前だけときた。ノーゲストと同じだろ」
「ワォ、これぞまさしく気の置けないっていうヤツ~?」
「……お前とそこまで親しくなった覚えはないけどな、ノラ」
「ニャハハハ、それはこっちも~願い下げ~」
と、変わらずにシニカルな笑みを浮かべたまま、手元のアイスコーヒーに手を伸ばす高校生ことノラ。
ノラの本名こそ知らないが、ウチへ頻繁にやってくる常連客だ。ノラという名前は、常連客の一人が「まるで野良猫みたいなヤツだよな」と言っていたのが始まりだ。野良猫、という呼び方は流石に厨二くさいので、ノラと縮めた愛称で呼んでいる。ノラが高校生だと知っているのは、時々私服ではなく制服でやってくる時があるからだ。その制服からして通っている高校は知っているものの、それについて詳しく聞いたことは無い。ノラの気が向いた時に話すだろう。野良猫のように気分屋なヤツだから、あまり構いすぎては嫌われてしまうだろう。
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