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私は今、自動車免許をと取るために教習所に来ている。実際、今は路上での訓練中だ。時期的には大学が始まった直後で、あまり人はいない。私は大学の近くにある教習所に通いで、講義の合間に教習を受けているのだ。
「はい、そこ右ね」
「了解です」
言われた通りに車を動かす。まだあまり慣れてはいないが、最低限のことはひと通り出来る。そんな感じ。
教官もそれがわかっているのか、あまり気を張り詰めず、かと言って抜き過ぎもせずに私の指導をする。年配の方なので、もう慣れているのだろう。
信号が赤になる。それに気付いて私はブレーキを踏む。特に問題なく止まる車。
「もうだいぶ慣れたか?」
「ええ、まあ」
可も不可もなく。平均的。それが私らしい。
いつも私は平均的であった。学力、運動能力、状況判断能力等。何かに秀でたものはないが、劣ったものもない。容姿もいたって平凡。それがつまらなくもあり、楽でもあった。
刺激的な毎日を送っているわけではない。かと言って、退屈をしているわけでもない。平凡な日々。私はそれに満足している。アニメや漫画のような展開には憧れるが、それは非現実であるからこそ。現実は堅実でありたい。
と、信号が青に変わる。対向車線には大型トラックが1台のみ。信号で静止していたわけではなく、ちょうど変わった瞬間に来た。余裕を持って行動するため、ウインカーを出して通りすぎるのを待つ。
ーーそれがいけなかった。あのトラックの運転手は長距離移動で疲れが溜まっていて、一瞬、うたた寝をしてしまったのだ。もちろん、それに気付くことはない。
僅かに前に出る。車線上に被らないように。
その瞬間、トラックの軌道が僅かに逸れた。それも、こちら側に。
「えーー」
「なっーー」
ぶつかる。そう思った瞬間、私の体に強烈なインパクトが加わる。意識が暗転した。
ーートラックの運転手の異変に、僅かにでも気付いていたら防げた事故。もし、前に出て待機しなかったら防げた事故。それで、私は命を落とした。
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