Round No.1

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実際には、立とうとした、が正しい表現かも。 「モモ」 バキン、と揺れた心臓。 今日何回目の電気信号の乱れだろうか。 抑圧音が発する‘モモ’という響きは 新鮮過ぎて目の前が傾いた事にさえ、気付かない。 「……え……」 手にしたリュックがバサリと床に落ちた。 何が起こったのかを理解出来ずにいて 今自分がどうなっているのか、分からずにいて ただ、目の前に迫ったのは ライバル倉内翔の密度の低いブラウンの瞳。 また自分の席に座っていて すぐ、目の前に倉内翔がいて 私は左隣の壁際に追い込まれていて 壁バン、でもなく、ただ、追い込まれている。 握られた右手首が、倉内翔の握力の強さに屈しようと している。 「あ、の、かけ」 「モモ、って呼ぶくらいの仲良しだった?」 「え?」 「兵藤さん? あんまり、反応示さないイモ子がものすっごい 醸してたから」 「か、か、かも?」 「フェロモン」 「は?」 倉内翔は、ニヤリ、と笑った。 いや、笑ったんじゃない、倉内翔はこんな事じゃ笑わない。 チャレンジングなそれでもない。 こんな顔は、初めて、見た。 「イモ子の癖に、生意気」 言い終わると、倉内翔は私の鼻を空いた方の手で ムギュ、と摘まんだ。
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