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「早く帰れよ」
倉内翔はガタリと席を立ち
綺麗に片付いた机の上に置かれたタバコとライターを持って
部屋から出ていく。
涙がポロ、と零れた。
「っ、く、苦しかっ、たぁ……」
倉内翔の言う通り
口呼吸すればよかったんだ。
だけど、その前にかけられた呪文に
まんまと引っ掛かって
呼吸自体を忘れた件、……い、言えない。
っていうか。
‘モモ’と、呼ばれた事に
頭と足が逆さまになるかと思ったくらいビックリして
匠くんに、呼ばれた時以上にビックリしたなんて
口が裂けても言えない。
床に寝転んだリュックを拾い上げ
鬼太郎ヘアはそのままに会社を飛び出した。
その勢いはまるでタイムセールで
通常160円のMサイズ卵が、今この10分間だけ80円!
それを狙って飛び込むおばちゃん達さながらで。
いや、そんな事よりも何よりも
ものすっごい至近距離に倉内翔がいた事が
私をそんな勢いにさせてしまった事に
気付いていなかった私。
ドキドキと加速する乱れた電気信号を発する心臓が
ただ、酸素不足で沢山のそれを取り込むために
とんでもなく加速しているのだと
思い込んでいた。
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