Round No.1

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「早く帰れよ」 倉内翔はガタリと席を立ち 綺麗に片付いた机の上に置かれたタバコとライターを持って 部屋から出ていく。 涙がポロ、と零れた。 「っ、く、苦しかっ、たぁ……」 倉内翔の言う通り 口呼吸すればよかったんだ。 だけど、その前にかけられた呪文に まんまと引っ掛かって 呼吸自体を忘れた件、……い、言えない。 っていうか。 ‘モモ’と、呼ばれた事に 頭と足が逆さまになるかと思ったくらいビックリして 匠くんに、呼ばれた時以上にビックリしたなんて 口が裂けても言えない。 床に寝転んだリュックを拾い上げ 鬼太郎ヘアはそのままに会社を飛び出した。 その勢いはまるでタイムセールで 通常160円のMサイズ卵が、今この10分間だけ80円! それを狙って飛び込むおばちゃん達さながらで。 いや、そんな事よりも何よりも ものすっごい至近距離に倉内翔がいた事が 私をそんな勢いにさせてしまった事に 気付いていなかった私。 ドキドキと加速する乱れた電気信号を発する心臓が ただ、酸素不足で沢山のそれを取り込むために とんでもなく加速しているのだと 思い込んでいた。
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