第1章

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「え……? リューマが帰って来ない?」 荷造りを部屋でしていると、ヒロキが部屋に入って来て言った。 「ああ。 電話しても繋がらないし」 時計に視線を走らせると、時刻はもう夜の10時。 「ヒロキはリューマとずっと一緒じゃなかったの?」 なんだか胸がざわついて、苦しくなった。 何故か沸き起こった罪悪感。 「ジェットスキー、現地の女の子に誘われたからリューマも連れて行こうとしたんだけど、一人で行って来いって言われて」 「…………」 「リューマは買い物行くって言ってたから、アラモアナに行ったと思うんだけど……。部屋に戻ってきた形跡はないんだよな」 明日、帰路の飛行機は朝8時の便だから 悠長に遅い時間までほっつき歩いていられないと思うんだけど。 「リューマ、帰りの準備は済ましてる?」 「全然。ベッドの上に私物散乱させて、スーツケースも広げたまま」 「…………」 なんだろう……。この得たいの知れない不安は…… 子供じゃないんだから 帰って来ないはずはない。 リューマはワイキキの地理は知り尽くしてるし、 少し遠出して困った事があったとしても 英語を話せるから、トラブルに合う事もないはずなんだけど。 「日付変わるまで待ってみましょう」 「そうだね」 ヒロキは今日1日でずいぶん日焼けした顔で さほど心配する素振りも見せずに 私のベッドにドサッと腰をかけた。 「里奈さんは、アダムと楽しめた?」 ヒロキが意味深な笑みを口元に浮かべた。 「ええ。楽しかったわ」 私は荷造りを再び再開して、ヒロキから顔を逸らした。 「里奈さんは、外人嗜好になったんだね。オレやナオトを相手にしなくなってさ」 私が無言でヒロキを軽く睨むと ヒロキは首をすぼめて、ベッドから立ち上がった。 「また気が向いたら誘ってね。オレはいつでもウェルカムだから」 子供みたいに無邪気に笑ったヒロキが凄く幼く感じた。 ヒロキはまだ23才……。 私とは10才の年の差。 彼女がいても、セックスは切り離して私と体を合わせる事ができるヒロキ。 きっとそれは若いから? どうしてリューマは ヒロキみたいに割り切れないんだろう。 ミユキ、ミユキって……。 何か思い出しそうになって脳裏を掠めたけど ズキッと痛みが走って、こめかみを押さえた。
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