77人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
杉田は、柔軟剤の匂いを感じながら、手に取る。
「運転は任せて下さい」
「……海に突っ込んだら、しゃれになりませんよ」
ひりつく喉から声を出し、杉田は、隣に顔を歪める。
「運転、練習します」と言い、リリコは前を向いた。
いつも通りの無表情な横顔に、なぜか、安心した。
ふたりは席を変え、倉庫街を後にする。
高速に乗ってから、すっかり日が暮れているのに杉田は気づく。
全身が冷たいのも。
「あの社長さん、真面目で、家族想いで、社員の誰からも好かれる方だったらしいです」
しばらく無言だった車内で、小さく聞こえた。
杉田は、「そうですか」と返す。
「昨年、奥さんが突然の事故で死に、その後すぐ『カタメ』に入信するまでは」
最初のコメントを投稿しよう!