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「名前を聞いてもいいか」
伊織の問に、その薬屋は、山形に丸の紋が描かれた葛籠箱を揺すって答えた。
「多摩郡日野の生まれの歳三と申します。家伝薬の石田散薬を売り歩いております」
茶店を出て、二人と一人はそれぞれ別方向に歩き出した。
寛子は伊織の顔を見上げた。
「面白い人だったね。あんなに食いつきがいいとは。今度来るかな」
「あれは来るだろぅ。塾の場所を教えた以上、必ず来る」
伊織もあの物腰の柔らかい薬屋のことが気に入ったらしい。
二人はそれから、数ヶ所の仏具屋と染物屋を巡り、亜鉛板、銅板、硫酸を入手することに成功した。
不純物が多い硫酸でどれほどの電圧がえられるか、やってみないことにはわからなかったが、希硫酸に亜鉛と銅をそれぞれ電極としてセットし、導線を繋いでみると、パソコンの充電マークが光った。
そこで、まず、検流計を作ってみた。
磁石を二つ用意して、その間に銅線を巻いて作ったコイルを置く。
電流が流れればそのコイルが回転し、電流が強ければ強いほど回転は速くなる。
何度か硫酸の濃度を変えて電流の強さを調整し、意外とうまくパソコンの充電に成功することができたのであった。
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