1 昭和19年

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昭和19年(1944)10月26日。フィリピンミンドロ島上空に一機の輸送機が飛んでいた。 迷彩柄にペイントされた機体の胴と主翼には、日の丸が描かれている。 大日本帝国海軍が保有する一式陸上攻撃機である。 その中に、一人の男が乗っていた。 身長180cm余り、飛行服に身を包み、真っ黒に日焼けした顔は凛々しさの中にいくらかの苦みがあった。 名を西澤伊織といった。 佐賀の田舎の出身で、生来の負けず嫌いで勉学をよくし、東京帝国大学の工学部に入学した。 それがどういうわけか、たまたま見た予科練募集のビラがきっかけで、予科練に入隊した。 その後、戦闘機の搭乗員として日米開戦の翌年2月に初撃墜して以来、その頭角を現し、撃墜王(エース)と呼ばれるようになるまで、そう時間はかからなかった。 80機以上の敵機を撃墜した、日本海軍が誇るエースパイロットの一人である。
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