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ようやく寛子の体調が回復してきた頃、この家には離れがあって、そこで伊織が塾を開いているのだということを知った。
「何を教えているの?」
「算術だ」
「算術?和算のこと?つるかめ算とか植木算とか、あの手のやつ」
「あぁ、それだ。詳しいな」
「中学受験で出てくるからね。小学生の時に散々苦しめられたよ。つるかめ算ってさ、図を書いて面積を使って解くとわかりやすい、とかって参考書には書いていたけど、ちっとも解りやすくなくて、中学生だった兄貴に質問したら方程式で説明されてさ、そしたらすんごいわかって、以来方程式で解いてた。伊織はどうやって説明してんの」
「まぁ、方程式みたいなもんだな。一応この時代の範疇から出ないことをやっている」
「なんだ、もったいない。せっかく知識があるんだから、方程式で教えちゃえばいいじゃん」
「おい、そんなことを言うと、科学の歴史が大きく変わるぞ」
「そうだけど、それが何の問題があるの?変えればいいじゃん。どうせ元の世界に戻れないんだし、そもそも元の世界と全く別の世界なんだし。それにさ、寝ながら考えていたんだけど、あの大東亜戦争の悲劇を回避するためには、今動かないとだめな気がするんだよね」
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