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「いえ、私には大事なんですけど、たぶん他の人にはただの石っころですよ。ね、伊織」
「だろうな。電波がなければただの石だ」
そんな二人の言葉に薬屋が興味を示した。
「それはあなた方にとって何の価値を持つのです」
「これですか。これはですね、黄銅鉱と言いまして、硫化銅の一種です。これには整流作用がありましてね、電流を一方向にだけ流すことができるんです。これを利用すると、AMラジオとかトランシーバーとか・・・うーん、つまり遠くから発せられた音が聞こえるからくりを作ることができるんです」
科学好きの宿命か、この時代にない用語を使ってつい説明をしてしまう。
そんなきわめてざっくりとした説明に、薬屋はいよいよ喰らいついてきた。
「遠くの音が聞ける・・・それはいったい、どうして」
「かなり複雑な話になるが、それでも知りたいか」
伊織が薬屋を見極めるようにして尋ねた。
「そうりゃぁ、もう。気になって夜も眠れませんや」
「よぉし、言ったな。長くなるから、どこかでゆっくり話そう」
そうして3人は一軒の茶屋の店先の長椅子に座り、適当に茶と団子を注文して話し始めた。
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