4 薬屋とボルタ電池

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「自然現象をより普遍的に記述すること、とでも言うべきかな」 伊織の変わりに寛子が答えた。 「自然現象?普遍的?」 「この世の中で起きていることを、説明するってこと。たとえば、この巾着を上から手を離すと下に落ちるよね。上には行かない。それはなんで?」 「そういやそうだな。なぜでござんしょう」 「あるいは、この巾着と同じ高さからこの刀を落とすとする。どちらが先に地面に落ちると思う?」 「巾着、あ、いや、刀か・・・?」 「こたえは同時。何度落としても、結果は同じ。ということは、そこに何らかの法則性があるわけでしょ。その法則性を算術的に表現して、あらゆる物にこの法則性が通用します、と言うのが科学というものです」 薬屋は目を白黒させて話を聞いていた。 「なんだかちっともわけがわからねぇが、とんでもなく面白い話しでございますね」 「おっ、この面白さがわかりますか」 「つまり、科学というもので世の中がわかるということでございましょう」 「その通り」 寛子は同志を見つけたようで、すっかり嬉しくなった。 「どうですか、勉強しませんか?この西澤伊織が本所の割下水で算術の塾を開いているんです。来ませんか」 「それは面白そうだ。ぜひ入門させて頂きたい」 薬屋は瞳を輝かせた。
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