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「先輩。お話があります。聞いていただけますか?」
「なに?」
目を伏せた早蕨が、少しだけ頬を紅く染めている。大縄跳びに飛び込むチャンスを伺う子どものように、口を開きかけてはまた諦める。
「どうしたの?」
もう一度タイトが優しく促す。
「わ、私……」
「うん」
早蕨は、そこで深呼吸を二回した。気持ちを入れ直して真っ直ぐタイトの目を見つめる。
「例えば……例えば透明人間というのは無色透明ですよね」
「そうだろうね」
透明人間を実際に見たことのないタイトは、慎重な応え方をする。
「そうなんです。色がついていたら、透明人間じゃなくなります」
「まあ、そうか」
「つまり色が付いていないのが、透明人間の良さなんです。今の世の中、なんでもかんでも色を付ければいいってものじゃないと思うんです。色が付けられてなくても素晴らしい作品は、この世にいくらでもありますよ! 白黒でもいいんです!」
「白黒の作品?」
早蕨が何を言い出したのかさっぱりわからずに、タイトは次の言葉を待った。しかし彼女はそれ以上は何も言わず、成し遂げた達成感に溢れる笑顔で「ねっ?」と同意を求めてくる。
「……作品?」
タイトは、もう一度呟いた。
足元で、涼香が小さく微笑んだ。
~おしまい~
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