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タイトから再度質問を繰り返されて、良子の方は気分を害した様子もなく、いやむしろ待ってましたとばかりに積極的に訴えてきた。
「無実です! 間違いありません。額の傷は事件のあった翌朝にはありませんでした!」
「どうしてそんな怪我をしたのかはお聞きになられてますか?」
「主人はその日、クレーム対応に出かけたんです。建てたばかりの住宅に欠陥があったとかで。額の傷はクレームをつけてきた相手から花瓶をぶつけられて出来たものなんです」
社長も大変なんだな、と早蕨は同情した。
「なるほど。それだったらその日の朝、怪我をする前の稀介さんに会った社員もいるでしょう」
「それが、その日に限って主人はクレーム先に直行したみたいで……」
「うーん。そうすると証言しているのは良子さんだけですか。証拠能力は低いですね」
タイトは相変わらずの軽い口調で、しかし表現だけは困ったような言い方をした。良子も早蕨も考え込むように俯いてしまう。
談話室のドアガラスの向こう側に、様子を見に来たガンさんの姿があった。タイトは女性二人が俯いているのをいいことにジェスチャーで『涼香ちゃんに夕食を』と頼む。ガンさんは夕食は日本酒に肴をつまむくらいしか摂らないが、食堂に行けば誰かが涼香ちゃんの分くらい作ってくれるだろう。
タイトが視線を戻すと、女性二人は相変わらず俯いていた。このまま自分がこっそりと談話室を出て行ったらどうするだろう、などとどうでもいい思案を巡らせながら、驚かせないように静かに声をかける。
「良子さん。警察は、その加害者のクレーマーにも確認を取ったんでしょう?」
「相手は花瓶なんか投げつけてないって言ってるそうです。でも絶対嘘ですよ」
「まあ、下手したら傷害罪ですからね。相手も積極的には自白したくないでしょう。それは裏付けを取るとして、その前に稀介さんからもお話を伺いたいのですが」
「やっぱりそうですよね。分かりました。日曜日なら連れて来られると思います」
「いえいえ、こちらからお伺いしますよ」
何を企んでいるのか、一見楽しんでいるようにしか見えないタイトの朗らかな笑顔を眼に止め、早蕨は良子を気遣って補足を入れる。
「社長さんはお忙しいでしょうし、ご自宅の方がリラックスしてお話いただけると思います」
「はあ。わかりました。じゃあ主人の都合を確認して、またご連絡いたします」
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