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「これから? 涼香ちゃんのお迎えはどうするんじゃ」
タイトは時計を眺める動作を取り敢えず形式的に挟んでから、屈託のない笑顔を相手に向ける。
「そうなんだ。ガンさん、お願いしていい?」
「わしはダメじゃ。今日は関節が疼いて堪らん」
「それは困るよ」
「何を言っとる。涼香ちゃんのお迎えはお前がちゃんとせんといかんじゃろ」
「うーん」
タイトは考えるふりをしてみた。ちょっとした問題であれば必ず誰かが手を差し伸べて助けてくれる。そんな人生を歩んでいるから物事を真剣に悩んだ経験は、実はあまり無い。
今回手を差し出したのは、談話室にいたもう一人の人物、早蕨恭子だった。
「先輩、先輩! 私が代わりにお迎えに行きますよ」
「うーん」
タイトの表情は、微塵も晴れない。
諸手を挙げて喜んで貰えると思った申し出に唸り声で返されてしまった恭子は、いささか矜持を傷つけられた。
「ちょっと先輩、その反応は酷くないですか?」
「ああ、ごめん。迎えに行ってくれるのはありがたいんだ。でも確か事前に届出してある人じゃないと、学童保育の先生も涼香ちゃんを引き渡してくれないんじゃなかったかな、って思ってさ」
入学式の日にもらった書類に、ガンさんの名前を書いた記憶がある。あと数名の名前を記入したが、その中に早蕨恭子の名前はない。その時点では知り合いではなかったのだからこれは間違いのない事実だ。
「そうなんですか。困りましたねー」
タイトは陽気な表情のまま、もう一度「うーん」と唸ると、突然何か閃いたように人差し指の背で鼻頭をポンッと弾いた。
「なんだ、簡単な事だった。僕と早蕨さんが代わればいいんだよ」
「えっ」
「つまり、僕が涼香ちゃんを迎えに行って、早蕨さんが来客の相手をするのさ」
「えっ、ちょっ、私が?」
「大丈夫だよ。ガンさんもサポートしてくれるから」
タイトがガンさんに援護を頼る。それを受けてガンさんもしっかり頷く。
「ここで同席するくらいなら構わんが、その来客とはどういう人なんじゃ?」
「小百合さんの紹介なんだ。初回の相談だからじっくり話を聞いといてね」
早蕨恭子はタイトからもう一度念押しされて、もう一度「えっ!」と呻いた。人見知りするたちではなかったが、他人の相談に乗れるほど人生経験を積んではいない。そもそも相談者はタイトを訪ねてくるのに、自分が相手をしては失礼ではないのか。
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