【2】

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亜子の卒業祝いにシャンパンを持ってこいと耳打ちすれば、そいつは微笑んで奥へと入っていった。 「あぁ、そんなに固くならないでください。今日は我々3人しかいないのですから、楽しく食事をしましょう。」 そうして、2人に向かって微笑みながらも、そいつが持ってきたシャンパンにギクリと目を見開いた。 ――このホテルのオーナーである俺の…、婚約者の祝いに…、モエの白…? 一瞬にして凍りついたテーブル。 だが、ウェイターはそんなことも気にならないのか、高らかと音を上げながら栓を抜きグラスに傾ける。 ――こんな小銭持ちみたいなシャンパンなんて婚約者の前で出すなよ…!普通ドンペリだろうが…! 数々の罵倒の言葉を飲み込んで目の前に座る2人をチラリと盗み見る。 澄ました顔をしている亜子はまだ酒の値打ちというものがわかっていなそうだが、その隣の父親は「これでいいのか?」と値踏みするような目をその奥に光らせている。 ――くそ…!男の顔に泥塗りやがって…! ふつふつと沸いてくる怒りを精一杯抑えながら、あとで支配人にきつく注意をせねばと心に決めて、俺は一息でグラスを空にしてやった。
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