Ⅲ.【情けは人のためにはならない】

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「おい、まだ隠れてないと駄目なのか、ミカちゃん」 美加ヶ原の後ろから突然声が聞こえた。路地を歩く冒険者や商人や街の人がたまたま声を掛けたわけじゃなく、なんとなくぼやっと視界に入れていた往来の景色にはいなかった人間だ。 言葉通り何処かの民家の隙間にでも身を潜ませていたんだろう。だが俺には、その男が何故そうしていたのか、実際どうやって隠れていたかなんてどうでも良かった。 拳が自然に握られて、ぷるぷると小刻みに震え出す。 問題はそんなことじゃない。その男──正確には美加ヶ原の横に並んだその男達の容貌に、見覚えがあったからだ。 それはもう、大変悪い意味で。 「ム、ムストン・・」 「うおおっ!!テメーはモヤシ野郎じゃねえか!!」 俺も驚いたけれど、相手の方も飛び上がりそうなくらい驚いていた。酒場とか鍛冶屋の親父っぽい腹が大きく出た体型の、ハンマーを背負った太った冒険者ムストンだった。 ちなみに体型の部分を敢えて二回言ったのは、俺にとって嫌な思い出があったからだ。まあでも、ずがあああん事件以降も【こいつら】とは現在進行形でトラブルがよく発生しているんだけど。 犬猿の仲・・というかもうボロドドンとバックルビーブボッブみたいな関係だ。そんな例えが思い浮かぶなんて、俺も結構異世界に染まり始めているのかもしれない。 「な、なんで死体漁りがこんなところにいやがるんだ」 「ちょっと、ミカちゃんがあたし達に会わせたかったのって、こいつのことなのぉ?」 「ほらね」と思わず一言。次いで俺の前に現れたのは、巨大出刃包丁みたいな大剣を背負う筋肉男ダストン、そしてナナフシみたいに細長いポポヴィッチ。 こいつらは冒険者同士でパーティーを組んで常に行動を共にしているから、遭遇する時は必ずこんな感じになる。 「あれ、皆知り合いなんじゃん。じゃあ自己紹介しなくて良いし、お互いにこれからよろーって、イエーイ」 段々と解って来たけど、美加ヶ原も結構空気を読まないタイプだ。睨み合う俺と冒険者トリオを気にもせず、無理矢理全員とハイタッチを交わす。 「ちょっと待った。美加ヶ原、これってどういうこと?こいつらって、お前のなんなの?そして俺のなんなの?」 「そうだぜミカちゃん、説明してくれ。どうして俺達とこんなモヤシ野郎を引き合わせたんだよ。冗談にも程があるぜ」 「そうだそうだ。ミカちゃんは知らないだろうが、死体漁りなんてこの街じゃ嫌われ者なんだ」 「男爵様だって煮えくり返るって奴よ。こうなりゃ後には芋は残らないわぁ」
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