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達也はデータをカーナビに転送すると、車をスタートさせた。急ぐため手動運転に切り変え、スピードを上げる。
狭い路地を巧みにハンドルを切りながら、徐々に男に近づいて行く。
やがて、カーナビの赤い点滅表示と現在地が重なり、達也は道路を塞ぐように斜めに車を止めた。
塀に囲まれた行き止まりの路地の先に、その男はいた。
隠し持っていたのか、手にバタフライナイフを持ち、落ち着き無く体を揺らして、達也達を睨みつけている。
「全く……、逃げ切れるわけねえだろうが!」
車から降りながら、富田が怒気を孕んだ声で叫ぶ。
男に近づきながら達也が声を掛ける。
「そこを動くな。これより、非労働者再生法第9条11項に基づき……」
「もう、いいよ!」
富田が遮る。相当頭に来ているようだ。
「……来るな、来るんじゃねぇ。おまえらに捕まるなんざまっぴらだ」
男は、半分脱げかかったトレーナーパンツを押さえようともせず、ナイフを振り回す。
「ああ、めんどくせえ。撃っちまえよ、神条。撃て」
「いや、それは……」
「誰も見てねぇって。訓練の成果を見せてみろよ」
「私が拘束します」
「なんだよ、強制労働組のくせして上の命令が聞けないのかよ」
達也は富田を無視すると、ゆっくり男に近づいて行った。
やおら、男がナイフを握った拳を振り上げ奇声を上げながら、達也に向かってくる。
弱々しく空を切る男のナイフを軽くかわすと、後ろから羽交い締めにして路上に倒し押さえ込む。
すかさずナイフをもぎ取り、後ろ手で手錠を掛けた。
動きを封じられても、男は叫び続ける。
「俺は知ってるんだからな!再生施設に行ったらどうなるか!お前ら、こんなことして何とも思わないのか!!」
男を引きずって、やっとの事で車の後部座席に押し込んだ。
男はシートの上でなおも暴れながら、達也の顔に唾を吐きかける。
「おまえなんざ、RATS(ラッツ)の餌食になればいいさ」
RATS……? 何の事だ。
始めて聞く名前だった。
富田は何もせず、腰に手を当てたまま達也を睨んでいた。
「神条、俺の命令無視したな。どうなるか覚えてろよ」
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